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Bluetooth®モジュールの技術

はじめに

ユビキタス社会に向けた取組みの拡大に伴い、民生機器・産業機器の両市場分野においてワイヤレス伝送に対するニーズが高まりをみせている。搭載機器の用途に応じて各種の無線規格が策定されるなかで、デジタル機器の近距離高周波無線規格であるBluetoothⓇは、各種OSの対応や携帯電話機器への搭載が進んだことにより多様な分野で普及が進んでいる。
その中で、これらBluetoothⓇが搭載された機器と家電機器の連携の進展により、家電機器リモコンにもBluetoothⓇ搭載の要求が高まり普及が見込まれている。
SMKでは各種BluetoothⓇモジュールの商品化を進めているが、本稿ではリモコンをメインターゲットとするHIDモジュールを中心に、開発経緯やその技術的背景を紹介する。
HIDプロファイル対応Bluetoothモジュール
【図1】 HIDプロファイル対応 BluetoothⓇモジュール外形写真

技術動向


BluetoothⓇは、免許なしで自由に使用することが可能な2.4GHz帯のマイクロ波を利用した世界標準無線規格で、数mから数十m程度の近距離無線通信を実現する。周波数ホッピング・スペクトラム拡散方式(FHSS)で通信しているため通信妨害に強く、盗聴されにくいと共に、消費電力が少ないことからバッテリー駆動のモバイル機器の通信に適しているという特長をもつ。BluetoothⓇ仕様 は1999年7月にVer.1.0が公開されて以来、バージョンアップを重ね、最新仕様は2010年6月公開のVer.4.0となっている。
さらに、BluetoothⓇではオーディオや画像、電話帳といったアプリケーションの通信仕様をプロファイルとして標準化している。このことから、BluetoothⓇは既存機器へのワイヤレス・アプリケーション拡充や高い相互接続性を容易に実現できる規格となっている。
このBluetoothⓇプロファイルの一つにHIDプロファイルがある。HID(Human Interface Device) とは、コンピュータのマンマシンインタフェースの総称で、一般には、以下のような入力機器がHIDと呼ばれる。
・キーボード
・ポインティングデバイス(マウス、タッチパッドなど)
・ゲームコントローラ(ジョイスティックなど)
HIDプロファイルはこれら機器をBluetoothⓇでワイヤレス化するための仕様となる。これらの機能を組み合わせたリモコンもHIDデバイスに分類をされる。

家電機器リモコン市場においては、これまで赤外線(IR)方式が主流であった。しかし、広指向性の確保が重要となる赤外線リモコンではTV画面が大型化するに伴い、ユーザからリモコンを向け易い位置に赤外線の受光機を設置することが困難になりつつある。更には、地上デジタル放送の普及によりインタラクティブTVの双方向サービスの進展、WEBサービスなど様々なインターネットアプリケーションとTVの融合が進められている現在、リモコンにもこれまでに無い多機能化・高機能化が要求されている。
このことからTVリモコン向け市場ではRF4CE規格を採用したRFリモコンの普及が始まってきている。RF4CEとは近距離無線ネットワークの世界標準規格の一つであり、低消費電力・低コストといった特長をもっており、SMKでも積極的に商品開発と市場投入を進めている。
その一方、携帯電話機やヘッドセット、パソコンなど幅広い市場で普及しているRF方式はBluetoothⓇであり、現在、世界中で13、000を超える企業が、BluetoothⓇの認証機関であるBluetoothⓇ SIGに登録(2010年)し、全世界で約15億台以上のBluetoothⓇ製品が出荷されている。これら機器との相互接続するシステム(TV)を考えれば、システムのRF部をBluetoothⓇで統一しておくことが望ましく、リモコン市場におけるBluetoothⓇへの要求もこれから大きくなってくると予想される。
SMKではこのような市場のニーズに応えるべく、RFリモコンのプラットフォームとして、HIDプロファイル対応BluetoothⓇモジュールを開発した。

製品概要


本製品は、リモコンやキーボード、マウスなどのHIDデバイスへの組み込みをモジュール1つで構成することを想定したHIDプロファイル内蔵のアプリケーションモジュールである。モジュールの外形を図1に、ブロック図を図2に、概略仕様を表1に示す。応用例を図3に示す。 製品の開発に際しては、高周波回路設計やBluetoothⓇ搭載の経験の少ないユーザでも容易に取り扱いでき、ローコストで簡単にリモコンを実現できることを商品コンセプトとした。コンセプト実現のために、本モジュールは以下の特徴を持つ。
1) プリントアンテナ付き面実装モジュール
2) Bluetooth®制御に関する機能をトータルサポートしたモジュール
3) 用途に合わせて様々なI/O端子を割当てることが可能
4)最大160キー(8×20)のキーマトリクスにより、AV機器制御コマンド+各Vendor固有のコマンドに対応
5)ポインティングデバイス用センサへ直接接続可能で、ポインティング機能やモーションセンサの搭載が容易
次に、上記に上げた特徴を実現するための取り組みについて、高周波回路技術とソフトウェア技術の項目に分けて説明する。

◇高周波回路技術
本モジュールの開発にあたり、以下の項目について検討した。
①チップアンテナからプリントアンテナへ変更
SMK製BluetoothⓇモジュールのアンテナは、これまでチップアンテナを採用していたが、コスト低減のためにプリントアンテナに変更した。プリントアンテナの性能は、プリント基板の材料、配線レイアウトに左右される。そこで高周波用シミュレータにより、最適設計を行った。その結果プリント基板の試作回数を抑えることができ、良好な放射パターンを得られた。
②6層基板から2層基板への変更
これまでSMK製BluetoothⓇモジュールのプリント基板は主に6層基板を採用していたが、コスト低減のために2層基板によりモジュール化した。面実装のためボトム層はハンダ面となり、多数のパッドの存在により十分な面積のGNDを確保しにくい。表層には全ての部品が実装されるため、GNDの確保が難しくなる。このような条件で、最適なRF回路部の配線について高周波用シミュレータを用いて検討し、2層基板のBluetoothⓇモジュールを実現した。
◇ソフトウェア
BluetoothⓇHIDでは、キー入力やポインティング操作を表すデータを、キーボードレポートやマウスレポートといったHIDレポートと呼ばれるデータ構造で通信する。本モジュールのソフトウェアは、このHIDレポート変換部分、及び、それに関連するキーマトリクスやSPI/I2CのI/O制御ソフトウェアを、HID製品の仕様に応じてカスタマイズできる内部構造を採っている。また、BluetoothⓇ接続/切断の自動化や省電力モード(BluetoothⓇ Sniffモード)通信など、製品用途に応じてソフトウェア最適化も必要となる。これら要件を満足させた上で、モジュールにソフトウェアを内蔵した形態で提供する事が可能となっている。
BluetoothⓇ SIG認証はモジュールでの取得を予定しているため、ユーザ側での認証作業は不要となる。
以上により、ユーザは開発負担を大幅に低減することが可能となり、BluetoothⓇ HIDデバイスを容易に実現できると考えている。
ブロック図
【図2】 ブロック図


システム例
【図3】システム例

項目仕様
電源電圧DC1.8~3.2V
標準BluetoothⓇ v2.0
パワークラスCLASS 2
対応プロファイルGAP (Generic Access Profile)
HID (Human Interface Device)
セキュリティ認証による誤接続防止
暗号化による盗聴防止
外形寸法36mm×19mm×2.5mm
【表1】HIDプロファイル対応BluetoothⓇモジュールの概略仕様

今後の展開

今回開発したHIDプロファイル対応BluetoothⓇモジュールについては、リモコン市場参入に向け拡販活動を進めていく。
SMKではBluetoothⓇ標準のアプリケーションソフトを拡充し、様々な市場ニーズに対応すべく、商品展開の多様化を図っている。本稿で説明したHIDプロファイル以外でも、オーディオ伝送のA2DPやハンズフリー機能のHFP/HSPのプロファイルに対応したBT500シリーズをすでに商品化している。更に、車載製品なども想定したマルチプロファイルモジュールの開発も進めている。
BluetoothⓇは近距離無線の規格であるが、近年は多種多様な市場ニーズに対し様々な無線規格が策定された。SMKにおいても各規格モジュールの商品化を進めるとともに、市場ニーズに合った各種無線規格のジュールを順次開発していく計画である。

注) BluetoothⓇは、Bluetooth SIG, Inc.が所有する登録商標です。

筆者:SMK株式会社 開発センター 
出典:電波新聞 2010年12月9日 特集「高周波部品とモジュール技術」