Bluetooth用通信モジュールの技術
1.はじめに
生活環境のあらゆる場所に情報通信環境が設置され、利用者がそれを意識せずに利用できる社会の実現に向けて、民生機器・産業機器の両市場分野においてワイヤレス伝送に対するニーズが高まりをみせている。搭載機器の用途に応じて各種の無線規格が策定されるなかで、デジタル機器の近距離高周波無線規格であるBluetoothⓇは、各種OSの対応や携帯電話機器への搭載が進んだことにより多様な分野で普及が進んでいる。
SMKでは各種BluetoothⓇモジュールの商品化を進めているが、従来のモジュールより低消費電力で無線通信を可能とするBluetoothⓇ Low Energy対応モジュールを開発した。本稿では、その開発経緯や技術的背景を含めて、モジュールの技術を紹介する。
BluetoothⓇ Low Energy対応モジュール外形写真
2.技術動向
BluetoothⓇは、免許なしで自由に使用することが可能な2.4GHz帯のマイクロ波を利用した世界標準無線規格で、数mから数十m程度の近距離無線通信を実現する。周波数ホッピング・スペクトラム拡散方式(FHSS)で通信しているため通信妨害に強く、盗聴されにくいと共に、消費電力が少ないことからバッテリ駆動のモバイル機器の通信に適しているという特徴をもつ。BluetoothⓇ仕様 は1999年7月にVer.1.0が公開されて以来、バージョンアップを重ね、2009年12月、BluetoothⓇ SIGからBluetoothⓇ Low Energy技術の物理層を規定したBluetoothⓇ Core Specification v4.0がリリースされた。
BluetoothⓇ Low Energyは従来のBluetoothⓇ技術と比較して、低消費電力の無線技術として設計されている。今後、BluetoothⓇ Low Energyに対応したProfileが順次規格化される予定である。
BluetoothⓇ Low Energyのターゲット市場は、
・スポーツ・フィットネス (センサーなど)
・ヘルスケア・ホーム&エンターテイメント (リモコンなど)
・オートモーティブ (キーなど)
・オフィス (マウスなど)
・腕時計 (タグなど)
などが想定されている。
BluetoothⓇ Low Energyが低消費電力を実現できる理由は大きく分けて3つある。
1つ目は無線回路自体の消費電力が低いことである。従来のBluetoothⓇと同様、1次変調にGFSK(Gaussian filtered Frequency Shift Keying)、2次変調に周波数ホッピング(多数のチャンネルを高速に切り替えて通信)を用いているが、変調指数の変更やチャンネル間隔の拡大、ホッピングパターンの簡素化などにより、従来のBluetoothⓇより低消費電力化している。
変調指数の変更について説明すると、従来のBluetoothⓇ技術の変調指数が0.35であるのに対し、BluetoothⓇ Low Energy技術では0.5である。変調指数が0.5であることはGMSK(Gaussian filtered Minimum Shift Keying:ガウス最小偏移変調)に近く、無線回路の消費電力を低減させる。
また、パケット長が従来のBluetoothⓇより短いために、送受信時の消費電力が低い。さらに、パケット長が長い場合、無線機はより長時間にわたり、比較的高い電力状態を保たなければならず、半導体の発熱量は増大する。このため部品の物理的な特性が変化し、無線機を常に再調整しなければ送信周波数が変化する(接続が切れる)可能性がある。再調整には電力が必要になる。これに対しBluetoothⓇ Low Energy技術では非常に短いパケットを利用しており、半導体の発熱を低減し、再調整に必要な電力を削減できる。
2つ目は間欠通信だということである。他のデバイスと接続中でもパケットの送受信以外の時間は無線回路の電源を切ってスリープ状態で電力を削減している。これによって通信時の平均消費電力を大幅に低減している。
3つ目は接続/切断の処理が速いことである。これは使われているプロトコルが非常に簡素であることと、専用のサーチチャンネルを用意していることによる。
接続処理が速くできるのは、他のデバイスの探索や、接続しようとしている他のデバイスに自分の存在を知らせるためのチャンネルを3つしか利用していないためである。
従来のBluetoothⓇ技術では、32チャンネルを使用していた。BluetoothⓇ Low Energy技術では、他のデバイスをスキャンするためにスイッチを「オン」にしなければならない時間は0.6~1.2msである。従来のBluetoothⓇ技術では、32チャンネルをスキャンするのに22.5msかかる。BluetoothⓇ Low Energy技術では、いったん接続が確立されると、データの送受信に用いられる37のデータチャンネルに切り替わる。従来のBluetoothⓇでは接続完了までに数百msかかることが一般的であったが、BluetoothⓇ Low Energyでは接続から切断までの処理が最短3msで実現できる。
以上の3つを組み合わせることにより、BluetoothⓇ Low Energyは従来のBluetoothⓇに比べて10~20分の1程度に低消費電力化できる。
BluetoothⓇ Low Energy技術に対応した機器は、シングルモードとデュアルモードの二つがある。シングルモードはBluetoothⓇ Low Energy技術のみに対応した機器で、デュアルモードは従来のBluetoothⓇ技術とBluetoothⓇ Low Energy技術の両方に対応した機器である。
3.製品概要
本製品は、低消費電力で無線通信を可能とするBluetoothⓇ Low Energyシングルモードに対応した通信モジュールである。モジュールの外形を写真に、ブロック図を図1に、概略仕様を表1に、さらに応用例を図2に示す。
製品の開発に際しては、高周波回路設計やBluetoothⓇ Low Energy搭載の経験の少ないユーザでも容易に取り扱いでき、ローコストで簡単にBluetoothⓇ Low Energy対応の機器を実現できることを商品コンセプトとした。コンセプト実現のために、本モジュールは以下の特徴を持つ。
1) BluetoothⓇ Low Energy シングルモード対応モジュール
2) BluetoothⓇ Ver4.0デュアルモード対応機器およびBluetoothⓇ Low Energyシングルモード対応機器との通信が可能
3)低消費電力を実現しているので、コイン電池駆動機器への組み込みが可能
4)プリントアンテナ
5)2層基板によるモジュール化
上記4),5)の項目については、実現するための取組みについて説明する。
【図1】ブロック図
項目 | 仕様 |
---|---|
適合規格 | BluetoothⓇ Spec. Version4.0 (BluetoothⓇLow Energyシングルモード) |
電源電圧 | DC1.8~3.6V |
外形寸法 | 18 × 28 × 2 mm |
最大送信電力 | +6dBm |
受信感度 | -80dBm(Typ.) |
消費電流 | Stanby:7μA Peak:20mA Advertising:0.5mA Connection:0.02mA |
・プリントアンテナ
コスト低減のために、モジュールのアンテナをプリントアンテナにした。プリントアンテナの性能は、プリント基板の材料、配線レイアウトに左右される。そこで高周波用シミュレータにより、最適設計を行った。その結果プリント基板の試作回数を抑えるとともに、良好な放射パターンが得られた。
・2層基板によるモジュール化
コスト低減を実現するために、2層基板によりモジュール化した。面実装のためボトム層はハンダ面となり、多数のパッドの存在により十分な面積のGNDを確保しにくい。表層には全ての部品が実装されるため、GNDの確保が難しくなる。このような条件で、最適なRF回路部の配線について高周波用シミュレータを用いて検討し、2層基板のBluetoothⓇモジュールを実現した。
【図2】 システム例
4.今後の展開
今回開発したBluetoothⓇ Low Energyモジュールについては、リモコン市場参入に向け拡販活動を進めていく。
SMKではBluetoothⓇ標準のアプリケーションソフトのラインアップを拡充し、様々な市場ニーズに対応すべく、商品展開の多様化を図っている。オーディオ伝送のA2DPやハンズフリー機能のHFP/HSPのプロファイルに対応したBT500シリーズをすでに商品化している。今後、規格化が予定されるBluetoothⓇ Low Energyに対応したProfileについても開発を進めていく。
注) BluetoothⓇは、Bluetooth SIG, Inc.が所有する登録商標です。
筆者:SMK株式会社 開発センター
出典:電波新聞 2011年12月8日 特集「高周波部品技術」