高速伝送対応 シールド付きFPCコネクタ
はじめに
近年、デジタル家電の高性能化・多機能化により扱う情報量も飛躍的に増加してきている。そのためデジタル信号の高速化も顕著となり、スマートフォンに代表される移動体通信機器やデジタルスチルカメラなどのモバイル機器においても、データ伝送の高速化および大容量化が目覚しい。FPC(Flexible Printed Circuit)コネクタは、液晶ディスプレイ等の機器内ユニットと基板間をさまざまな形態で接続できることから多くの電子機器に採用されている。これまでFPCケーブルにおいては、高速伝送特性ではなくシールド特性の向上を目的とした製品が開発されてきた。多層FPCや銀あるいは銅ペーストを印刷したFPCケーブルといったものであるが、ノイズに対する効果はあるもののデジタル信号の高速化に伴う高速伝送特性という観点からは満足のいくレベルには至っていない。
また、伝送線路としてはFPCケーブルだけでなく、接続されるコネクタも伝送線路となるため、FPCケーブルとコネクタが一体となった高速伝送特性の向上が必要となってきている。
本稿では、デジタル信号の高速伝送が可能なFPCコネクタを開発、販売を開始した「ENシリーズ」について、その製品概要と伝送特性の一部について紹介する。
製品概要
今回開発した「ENシリーズ」の主な特徴は以下の通り。主にスマートフォンを含む携帯電話、デジタルスチルカメラ、モバイルPCでのデジタル信号の高速伝送に貢献している。
(1)高速伝送対応FPCコネクタ レパートリー(図1)
EN-31・・・0.3mmピッチ/実装高さ1.2mm
EN-32・・・0.3mmピッチ/実装高さ0.8mm
EN-43・・・0.4mmピッチ/実装高さ0.8mm
(2)金属シールド採用によりEMIを強化
(3)FPC挿入のワンアクション接続によりFPC結線作業が容易
EN-31 | EN-32 | EN-43 |
製品コンセプト
本コネクタを開発するにあたり、FPCケーブルによるデジタル信号の高速伝送が可能なこと、またFPCケーブルの結線作業をこれまで以上に簡素化することを開発ターゲットした。
1.高速伝送対応
デジタル信号の高速化により、信号の伝送損失や反射による波形ひずみなどの問題が懸念される。そこで伝送特性要因のひとつである特性インピーダンスを整合(マッチング)させることが特に重要となるため、次のような検討を実施した。
(1)コンタクト断面の均一化
FPCケーブルと接続するコネクタのコンタクトにおいても伝送線路となるため、特性インピーダンスのマッチングが重要である。そこで、コンタクトのどの部位においてもインピーダンスのミスマッチがおきないように、コンタクトの断面積が均一となるような構造が必要となる。今回はコンタクトをベローズ形状とすることで、コネクタに必要なバネ性能を確保しつつ、伝送特性に必要な断面積の均一化を図った。
(2)コネクタ材料
一般的なFPCコネクタでは、信号線となるコンタクトとそのコンタクトの保持および隣接ピン間の絶縁の目的でエンジニアリングプラスチック製のインシュレーターとで構成される。特性インピーダンスのマッチングにおいてはインシュレーター材の誘電率も重要な要因となるため、コネクタに必要な流動性や耐熱性などの諸性能を満足しつつ、特性インピーダンスに最適な材料の選定を行った。
(3)FPCパターンの最適化
デジタル信号の高速化を図るためにはシリアル信号による伝送が必須であり、LVDS(Low Voltage Diffrential Signaling:図2)をはじめとした高速伝送規格を想定し、差動信号によるインピーダンスマッチングを検討することとした。
FPCケーブルにおいては、後で述べるEMI特性も考慮し両面FPCケーブルを採用することとした。両面FPCケーブルの構成としては片面を信号線として使用し、その裏面側をグランド用の銅線ベタあるいはメッシュ構造とした。これはいわゆるマイクロストリップ伝送線路であり、比較的容易にインピーダンスマッチングを行うことができる。
これらの項目を検討した結果に対して、最終的にはFPCケーブルを含めた伝送シミュレーション(電磁界解析)を実施し、最適な構造を決定している。
【図2 LVDS(Low Voltage Differential Signaling)】
2.EMI対策
(1)シールドプレートの採用
コネクタ構成として、インシュレーターとコンタクトという構成に加えて、EMI対策を施すために今回は更にシールドプレートを採用することとした。(図3) シールドプレートは基板と半田付け接続させることでグランド接地が可能となる。また、シールドプレートは両面FPCケーブルのグランド面と接続させる構造とすることにより、FPCケーブルとコネクタが一体となってグランド化できる伝送線路構造となる。
そのほか、シールドプレートの剛性により、コネクタの小型化・低背化においてもコネクタの堅牢化に貢献できるという利点もある。
(2)グランドの強化
先に述べたシールドプレートは、さらにコンタクトリード部の間にも半田付けされグランド接地させる構造とした。
本構造により、コネクタ信号線間にも複数ポイントでグランド接地させることができ、よりノイズに対する耐性が強化されることにより十分なEMI特性を得ることが可能となる。
FPC結線作業が容易
本コネクタは作業工程の簡素化に貢献することも特徴のひとつとしている。具体的には、FPC挿入のワンアクションのみで、①FPCケーブルとコンタクトの接続と、②FPCケーブルのロック を同時に完了する容易な結線作業ができる構造としている。
また、FPCを抜去する場合はロック専用レバーを解除することで可能となる。これはSMKのオリジナル構造であり、この容易なFPC結線作業はエンドユーザーより高い評価を得ている。
【図4 評価測定サンプル】
伝送特性評価
ENシリーズと適合FPCケーブルを使用し伝送特性評価を実施、その測定サンプルの形態を図4に、評価結果の一部を図5に示す。
(1)差動インピーダンス
TDR(Time Domain Reflectometry)により測定した結果、立ち上がり速度が78psの高周波数帯域においても、FPCケーブルおよびコネクタ部での特性インピーダンスの乱れは小さい。
したがって、特性インピーダンスマッチングに関して、本開発コンセプトが反映された結果となっていることが確認できる。
(2)アイパターン
FPCケーブルにおいてアイの中心、上部、下部の規格領域となるマスクの規定はないが、3Gbps帯域においても十分なアイ開口となっている。これにより、高周波数帯域においてもデジタル信号がロスなく伝送されていることが確認できる。
また、FPCケーブルの180度曲げによる伝送特性評価においても、ストレート品と同等の評価結果も確認している。したがって、高速伝送対応でありながら機器内配線の自由度を上げることも可能である。
FPC | ||
tr | コネクタ部 | FPC |
78ps | 88~102Ω | 99Ω |
100 | 90~102 | 99 |
200 | 93~102 | 98 |
260 | 94~102 | 98 |
300 | 95~102 | 98 |
400 | 96~102 | 98 |
500 | 97~102 | 98 |
代表値 Tr:100ps |
速度 | 入力信号400mV |
---|---|
600Mbps | |
1Gbps | |
2Gbps | |
3Gbps |
【図5 TDR/アイパターン測定結果】
まとめ
電子機器の小型化に伴い、機器内部での配線にFPCケーブルを採用する場合が多い現状からすると、FPCケーブルを使用したままでデジタル信号の高速化が可能となるメリットは計り知れない。今後は益々データ伝送の高速化が進むことが予想され、適合FPCとしてシールド付き両面FPCを採用しコネクタを高速伝送仕様に最適化した「ENシリーズ」は、データ伝送の高速化に対して大きく貢献するものと考える。筆者:SMK株式会社 CS事業部
出典:電波新聞 2011年3月3日 特集「コネクタ技術」