車載用同軸コネクタの技術
はじめに
近年、ETCサービスの普及からDSRCサービスへの融合と、最先端の情報通信技術を用いた車載ネットワーク化が進んでいる。 そして今後、さらに発展していくITSサービスに対応した車載用情報通信機器の需要拡大が予想される。これらの情報通信機器とアンテナを接続する同軸コネクタには、過酷な環境下においても、良好な高周波特性を維持させる必要があり、接続信頼性や機械的強度の確保が重要視されている。 また、車載用情報通信機器の多機能・高機能・小型化が進んでおり、同軸コネクタに対しても小型・省スペース・高性能化の要求が以前に増して著しい。
SMKでは、ETC/DSRC車載器や地上波デジタル・カーTV向けにTC-15シリーズを開発してきたが(写真1)、さらに小型化のニーズに応えるべく、小型でありながら高い機械的強度と良好な高周波特性を確保したTC-25シリーズ(写真2参照)を開発し、レパートリーを拡充したので、併せて本稿で紹介する。
製品の特徴
TC-15、TC-25シリーズは成形、プレス加工部品で構成されつつ、高整合で良好な高周波特性を維持している。 使用周波数は、TC-15、TC-25の50Ωタイプは6GHzまで、TC-15の75Ωタイプは800MHzまでをカバーしている(表1参照)。シリーズ名 | TC-15シリーズ | TC-25シリーズ | |
タイプ | レセプタクル:エッジマウントタイプ(50Ω) レセプタクル:SMTタイプ(50Ω) プラグ(50Ω) |
レセプタクル:エッジマウントタイプ(75Ω) プラグ(75Ω) |
レセプタクル:SMTタイプ(50Ω) プラグ(50Ω) |
公称インピーダンス | 50Ω | 75Ω | 50Ω |
定格電圧・電流 | AC250V, 1A | AC250V, 1A | |
使用温度範囲 | -40℃~+105℃ | -40℃~+105℃ | |
周波数範囲 | DC~6.0GHz | DC~800MHz | DC~6.0GHz |
V.S.W.R. 電圧定在波比 |
1.5以下 (DC~6.0GHz) |
1.5以下 (DC~800MHz) |
1.5以下 (DC~6.0GHz) |
コネクタ嵌合部 ロック強度 |
100N以上 | 100N以上 | |
コネクタ挿入力 | 40N以下 | 20N以下 | |
プラグ適合ケーブル (外径) |
1.5D (φ3.0mm) |
1.5D (φ3.0mm) |
1.5D (φ3.0mm) |
ケーブル接続強度 | 100N 以上 | 88.3N 以上 | 100N 以上 |
従来、車載用コネクタにおいて、プラグとレセプタクルの嵌合方式はモールドロック方式が一般的に採用されてきたが、TC-15シリーズ以降、それをメタルロック方式に変えることにより小型化を図りTC-25シリーズではさらなる低背化を実現している。また、嵌合ロック強度、ケーブル接続強度ともに100N以上と高い機械的強度を有し、自動車走行中の振動や厳しい環境変化においても、接触信頼性を考慮した設計となっている。
1)レセプタクル
レセプタクルは、車載用機器において業界最小クラスの基板占有面積を実現している。
TC-15シリーズは、エッジマウントタイプとSMTタイプの2種類があり、エッジマウントタイプの製品寸法は、幅12.0mm×奥行11.0mm×高さ6.5mm(基板面高さ4.5mm)、SMTタイプの製品寸法は、幅9.5mm×奥行11.3mm×高さ6.5mmである。
TC-25シリーズはSMTタイプの1種類、製品寸法は、幅8.2mm×奥行11.05mm×高さ4.5mmであり、TC-15シリーズSMTタイプに対して2.0mmの低背化を実現し、車載機器などのさらなる小型化・薄型化に貢献している(図1参照)。
また、梱包はエンボステーピングを標準としており、自動実装が可能である。
【 図1】TC-15・TC-25の外形寸法
(クリックで拡大)
2)プラグ
レセプタクルへの嵌合(挿入)については、TC-15、TC-25シリーズともに、レセプタクルの開口部に対し180度反転しても挿入可能な構造とした。また、十分なクリック感を持たせる構造としたので、嵌合時の戸惑いが少ないとともに、手探り状態でも嵌合し易くするなど、操作性を配慮している。特に、TC-25シリーズにおいては、コネクタ挿入力を低く設計しており、良好な嵌合操作性が得られている。
また、レセプタクルから抜く際は、プラグの両サイドのプッシュレバーを押しながら抜去する方式を採用しており、ロック解除方法が明瞭で、狭いスペースでの取り外しが容易に行える。
尚、TC-15、TC-25シリーズは、クロスユースできない構造としている。
開発のポイント
機器の小型・省スペース化に対する部品の役割は大きく、基板上における占有面積や製品サイズの制約が大きい中、その一方では小型・省スペース化が求められても、機械的強度、電気的性能(高周波性能)、組立作業性などにおいては、従来品より向上、もしくは同等レベルである必要性があり、あらゆる面で信頼性のある構造設計が要求されている。1)小型化と機械的強度
通常コネクタの小型化を図る場合には、材料の厚みや基板接地面積等を小さくするが、使用上重要視される基板剥離強度やこじり強度などの機械的強度が低下することが予想される。
しかし、本製品では通常のモールドロック方式ではなく、メタルロック方式を採用することで、機械的強度を確保しつつ、小型化を実現した。
また、レセプタクルにおいては、プラグとの嵌合部を金属で取り囲む形状にしたことや基板接続部を通常のガルウイング形状に加え、ピン・イン・ペースト(ピン形状端子のリフローソルダリング)方式とすることにより、基板剥離強度を確保し、耐こじり性の信頼性を高めている。
2)組み立ての作業性・安定性
プラグは、主に得意先ラインでの組立となるため、出来るだけシンプルな組立方法となるような構造と部品形状を考え、組立工数の低減と工程能力の向上に貢献している。
また、同軸ケーブルの結線方法も、中心導体、外部導体ともに組立作業性と安定性を考慮し、圧着方式を採用している。
3)圧着部接続強度と高周波性能
本製品では、当社の車載用同軸コネクタの技術実績により、設計、経験、ノウハウを活用し、独自の圧着形状を開発した。
まず、小型化と接続強度を両立させるため、シェルの嵌合部と圧着部を一体とする形状と、同軸ケーブルの外部導体をスリーブで挟み込む構造を採用することにより、100N以上のケーブル接続強度を確保し、ケーブルの内部構造の変形や熱的負荷に対する影響への防止も図った。
また、コネクタの広帯域化を実現させるためには、コネクタ伝送部、嵌合部、接続部(基板部・ケーブル結線部)の整合性を図る必要があり、特に圧着部は重要なポイントである。圧着部については、接続強度を重視すると高周波性能が劣化し、高周波性能を重視するとケーブル接続強度が低下するという、相反する関係がある。そのため、同軸ケーブルのケーブル接続部と高周波性能は、両方を満足する適切な圧着形状を設定する必要があり、当社他製品の技術蓄積の活用、試作段階からの構造、形状、寸法、材質の検討を実施し、不整合を極限まで削減して最適化を図り、RF性能の向上、広帯域化を実現させている(図2参照)。
また、シミュレーション技術の活用により設計の妥当性、適正確認も開発初期段階で行うことができ、早期設計・開発期間の短縮にもつながっている。
4)環境への対応
RoHS指令に代表される各国の製品含有化学物質規制や各メーカの環境規制に適合した製品を供給することも重要である。本製品においても設計段階からの規制情報に基づいた材料選定の実施や製造工程からの規制物質の徹底的な排除など、全ての工程でクリーン化を図っている。
<TC-15 75Ωタイプ> V.S.W.R.:レセプタクル(エッジマウントタイプ)、 プラグ(1m) |
<TC-15 50Ωタイプ> V.S.W.R.:レセプタクル(エッジマウントタイプ)、 プラグ(1m) |
<TC-25 50Ωタイプ> V.S.W.R.:レセプタクル(SMTタイプ)、プラグ(1m) |
今後の展望
カーエレクトロニクス市場に限らず、情報通信の発展に伴い、あらゆる電子機器の小型、軽量、薄型化や高周波数化の流れは今後も進んでいく傾向にある。本コネクタは、車載用機器をはじめ、無線LAN、基地局装置など幅広い分野においての高整合特性をいかんなく発揮するため、各分野への展開を図っていく。
また当社ではこれまで培った経験、技術を活かしながらかつ新しい技術を積極的に取り入れた総合的な高度技術により、今後も市場動向を見据え、ユーザーニーズに対応する製品を開発し続けていきたい。
SMK株式会社 CS事業部
出典:電波新聞 2011年10月6日 特集「自動車用電子部品技術」