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携帯機器用操作スイッチの動向


最小肉厚部 0.04ミリのインサート成形実現

はじめに

昨今の携帯電話はデザイン性、操作性の向上を図るため薄型化が進んでいる。さらに高解像度カメラの内蔵、タッチパネル機能搭載等、高機能・多機能化が目覚しく進み、部品の実装密度も日増しに厳しくなっている。また防水機能搭載の製品も増えており、防水に関わる部材を組み込む事により、周辺部品の実装面積が小さくなる傾向にある。そのため、実装部品の小型化の要求は更に高くなっている。
スイッチも同様に、小型化、薄型化を求められるとともに、操作頻度が増える事から、長寿命化も求められている。現在、スマートフォンやタブレットPC等の普及により搭載されるスイッチの需要も伸びており、スイッチに求められる機能の重要性とコスト対応力に注目が集まっている。
ここではこれら携帯機器に搭載されるスイッチの動向について解説する。

携帯機器の搭載される主なスイッチ

携帯機器に搭載される操作用スイッチの代表的な物として、タクティールスイッチ、検出スイッチ、スライドスイッチ等がある。(図1)その用途として次のような物が挙げられる。
・タクティールスイッチ:電源、ボリュームUp-Down、モード選択キー、テンキー等
・検出スイッチ:メモリーカード、SIMカード、バッテリーの挿入検知等
・スライドスイッチ:キーロック、モード選択キー、電源等
これらに加え、最近では、携帯カメラのAF + シャッター用としてダブルアクションスイッチ、ナビゲーション機能等に使用される多方向入力スイッチ等の入力デバイスとしての機能を持った物も搭載が増えている。
操作用スイッチ
携帯電話に搭載される操作用スイッチの代表例


1. 小型・薄型化、長寿命化への対応
これらのスイッチは、その用途、機能は様々であるが、携帯機器搭載用として小型化、薄型化、長寿命化が共通の仕様として求められている。小型化・薄型化・長寿命化に伴い問題となってくる点は1)部品の製造精度、2)実装強度、3)セット設計の難易度が高くなる等が挙げられる。これらの問題を解決するには事前の解析技術が欠かせない物となっている。
以下にタクティールスイッチを例に挙げて解説する。

1)部品の製造精度
超小型スイッチを製造するには、その各個品の高い寸法精度が必要である。金型の加工精度はもとより樹脂成形の技術、材料選定が重要になる。超小型タクティールスイッチのケースは殆どの物がターミナルをインサート成形で構成するタイプとなっている。
超薄型タクティールスイッチの場合、ケースの厚みが約0.3mm程しかなく、成形を行う場合、樹脂の肉厚が場所によっては0.05mm以下になってしまう。このような場合、試作型でのトライ、修正を繰り返す手法は行わず、樹脂の流動解析を徹底する事で工数の削減、形状の最適化を図っている。(図1)
この事例では流動解析により材料選定とともにゲート位置、形状を最適化、結果として最小肉厚部0.04mmのインサート成形を実現した。また、ケースの中に入るメタルコンタクトも従来品よりも小型化、薄型化されるため、作動時の応力解析により加工の最適化を行い、高寿命、かつ良好なフィーリングを実現させている。
メタルコンタクト応力解析シミュレーション
【図1】メタルコンタクトの応力解析シミュレーション


2)実装強度
携帯機器の場合、様々な人が色々な使い方をする事を想定しなければならない。特に操作用スイッチの場合、力強く押したり叩いたりされることもあり、スイッチにかかる負荷は大きな物がある。
その中でも最大の負荷が想定されるのは、機器を落下させた時である。直接スイッチの操作部に衝撃がかかった場合、スイッチが基板から剥離したり、破壊したりする恐れがある。そうしたことから、携帯機器用のスイッチにはスイッチ自体の強度とともに基板への実装強度も求められている。
実装強度を上げる方法として用いられて来た方法は、スイッチのケースやカバーにボスを設け、基板に穴を開けてスイッチが剥離しにくい構造とすることである。しかしこの方法では高密度化、多層構造化された基板に穴を開けることになり、基板の設計上からは敬遠されることが多い。
そのため、ターミナルの形状や配置を工夫することにより通常のSMD実装で実装強度を上げる方法の物が多く採用されている。
通常のSMD実装タイプの場合、はんだとの接合強度に多くを依存する。このため、シミュレーションによりタンシ形状、位置を検証し、最適化を行っている。(図2)
応力解析シミュレーション
【図2】剥離強度、スイッチ破壊の応力解析シミュレーション

この事例では、基板からの剥離強度70Nを確保した。しかし、実装強度の要求は更に高い物を求めている。更に実装強度を上げる方法として、ミッドマウント方式が考案されている。この方式は基板の一部を切り欠き、スイッチを基板にぶら下げる様にマウントする方式である。(図3)
この方式の特長はスイッチの背面で操作方向の力を受け、実装強度を上げていることである。基板を切り欠くことが必要となるが、ターミナル形状の工夫とはんだとの接合強度だけに頼っている方法に比べ、はんだ部分にかかる力を分散させる事が可能になり実装強度を上げることができる。この事例では、基板からの剥離強度100Nを実現した。
ミッドマウント方式
【図3】ミッドマウント方式

スイッチ実装強度への新しい考え方

携帯機器用スイッチの実装強度が重要である事は前記の通りであり、スイッチ側で実装強度を上げる方法を採用している。しかし、実際の携帯機器製品での破壊状況は、スイッチ自体の破壊よりも実装している基板の銅箔パターン自体が衝撃で剥がれてしまうという事例も多い。この問題に対応する方法としてスプリングフィンガーコンタクトスイッチ方式が挙げられる。(図4)
スプリングフィンガーコンタクトタイプタクトスイッチ
【図4】スプリングフィンガーコンタクトタイプタクトスイッチ

この方式は、携帯機器の筐体にスイッチを取り付け、基板に押し付けるようにして取り付ける物である。落下等でスイッチ操作部に過負荷がかかった場合でも、筐体のたわみで力を逃がすことができ、スイッチ自体が破壊し難くい。またはんだで基板に固定されていないため、はんだやパターンの剥離でスイッチが機能しなくなるといったトラブルは発生しない。
もう一つの利点として、修理・交換の利便性がある。仮に落下等でスイッチ自体が破壊してしまい交換が必要となってしまった場合、従来のはんだ実装されたスイッチでは殆ど基板ごと交換が必要となる。
それに対し、スプリングフィンガーコンタクトスイッチでは取り付けがはんだレスであるため、筐体が破損していなければスイッチのみの交換で対応可能である。データの消失等、修理によるトラブルを最小限に抑えられるとともに、はんだを使用せず廃棄部品を増やさないという環境にも配慮したスイッチである。

3)セット側の設計を容易にする
スイッチが小型化、薄型化されることで難しくなるのが、セット側とのクリアランス設定がある。タクティールスイッチには操作時に良好なフィーリングを得るための押圧範囲が存在する。スイッチが小型化されると、メタルコンタクトも外形が小さくなり、この押圧範囲も同様に小さくなる。スイッチ実装時のマウントずれやセット側キートップのズレは必ず発生するため、スイッチの押圧範囲を必ず押せるように設定するにはかなり厳しい公差管理設定が必要となる。このためセットの設計、生産管理を容易にするために、タクティールスイッチの押圧面に突起状の押圧部を設け、マウントずれ等の公差を吸収する方式が開発されている。(図5)
押圧面に突起状の押圧部を設けたスイッチ
【図5】押圧面に突起状の押圧部を設けたスイッチ。
キートップのズレが発生してもスイッチのフィーリングが変わりにくい


2. ポインティングデバイス
ナビゲーション機能を搭載した機器において、地図上でポインタをスムースに動かしたいという要望がある。これに対応するスイッチとしてポインタ用スイッチが開発されている。方式として光学式(OFN)やアナログ式(静電容量式、抵抗感圧式)等がある。
弊社は静電容量式で小型化・薄型化を進めており、現在、約8mm×8mm×t1.4mm の物を開発している。(図6)
従来の4方向又は8方向のメカ式スイッチでは地図上でポインタをスムースに動かすことはできなかった。このポインタ用静電容量スイッチではX-Y方向に対して無段階にスムースに動かせると共に、動作時の押圧力も検知可能であるため、ある方向に弱く押すと押した方向にポインタがゆっくり移動し、強く押すと早く移動する等の動きも無段階でスムースに行える物である。
薄型静電容量スイッチ
【図6】薄型静電容量スイッチ。左は□12mm、右は□8mm。厚さはいずれも1.4mm

まとめ

今後、スマートフォンやタブレットPCの開発競争が進むにつれ、携帯機器用操作スイッチに対しても開発スピードとコスト対応力が要求されてくると考える。スイッチ開発の現場では、小型化・薄型化に伴う操作性低下や実装の難易度Upに対する対策を機構の様々な工夫とシミュレーションを駆使して対応しているが、要求は更に高まっている。これらのニーズに対応するため、シミュレーションの精度を更に向上させ、開発スピードUpを課題として進めていく。
筆者:SMK株式会社 FC事業部 
出典:電波新聞 2011年 3月 10日 特集「移動体通信用部品技術」

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