抵抗式タッチパネルの技術動向
1.はじめに
タッチパネルが液晶と組み合わされた入力デバイスとして利用されるようになって20年以上経過している。普及し始めた当初の方式は、抵抗式や光学式・超音波方式・電磁誘導方式などが主流であったが、電子機器への液晶搭載率が高まり、それと共に抵抗式タッチパネルを組み合わせた製品が多く発売されるようになってきている。また、近年はスマートフォンなどのモバイル機器の普及により軽快な操作が可能な静電容量式タッチパネルが広く普及してきている。
抵抗式タッチパネルは、フィルム・ガラス構成がスタンダードな構成である。そのほかには高耐久性能を目的としたガラス・ガラス構成タッチパネル、軽量化を目的としたフィルム・フィルム構成タッチパネル。屋外での利用用途のため偏光板を貼り付けた低反射タッチパネルなど、目的や用途によって使用する部材・構成を変えている。
今回、抵抗式タッチパネルに様々な機能を付加することにより、ざらに使い易く操作性を向上させた、進化したタッチパネルの技術動向について4例を紹介する。
2.軽荷重タッチパネル
抵抗式タッチパネルは指で「押す」ことで、上部透明電極と下部透明電極が接触し入力位置座標を読み取るデバイスであるが、スマートフォン等に採用されている静電容量式タッチパネルはパネルに触れるだけで入力位置座標の読み取りが可能となる。静電容量式の普及により、触れるだけの軽いタッチ入力が一般化された現在、抵抗式も「軽い入力荷重で操作」が出来ることを市場から求められており、弊社もこのニーズに応えるため、軽快な操作感が得られる軽荷重のタッチパネルを量産化している。(表1参照)
項目 | 従来品 | 軽荷重品 |
---|---|---|
ペン入力荷重 | 0.3N以下 | 0.1N以下 |
指腹入力荷重 | 1.0N以下 | 0.2N以下 |
2-1:従来のタッチパネルとの違い
抵抗式タッチパネルは、下部電極面にドットスペーサを形成して未入力時における上下電極の絶縁を維持している。
このドットスペーサが入力時の操作荷重に影響するため、軽荷重タッチパネルは、このドットスペーサの形状(大きさ)や配置(レイアウトやピッチ)を従来のものから見直しを行っている。
また、軽い荷重での入力になるため、温度変化によるフィルムの伸縮やタッチパネルの設置時の歪み等が原因となって発生する意図しない入力を防止するために、上部フィルムの材料見直しやフィルムの貼り合わせ行程の改善を行うことで対応している。
2-2:軽荷重化の利点
マルチタッチ操作を可能にする抵抗式タッチパネルコントローラがロームなどの半導体メーカーから発売されているが、軽荷重タッチパネルを利用することで、スタイラスペンの利用や手袋を着けたままでもジェスチャー(ピンチイン/アウト、フリック)などの機能が、静電容量式タッチパネルと同じ感覚で操作が出来るようになる。
2-3:応用分野例
・カーナビ(地図の拡大縮小・移動・スクロール、メニューの切替え)、
・小型タブレット、電子辞書 など
3.近接センサー付きタッチパネル
タッチパネルを搭載した機器において低消費電力モードに移行した場合、LCDの表示を消すことが一般的である。この場合、低消費電力モードから復帰させるため、タッチパネルもしくは他のSWを一度入力するウェイクアップ操作を行うことが必要となる。<br> そこで、タッチパネルに近接センサ機能を付加することで、指をタッチパネルに近づけるだけで低消費電力モードからの復帰を自動で行えるようにしたものを開発し発表した。
3-1:近接センサー方式の仕組み
未入力時にタッチパネルの上部電極を静電センサとして利用し、導体である指の接近を検出している。(図1参照)
指の近接を検出すると、近接情報をホスト側に通知することで、ホスト側は低消費電力状態から復帰し液晶を表示させることが可能となる。
入力があった場合は通常の抵抗式と同じ制御にて入力座標値の読込を開始する。指がタッチパネルから離れた場合は、近接情報通知を終了し再近接の監視を行う。
3-2:近接センサー付きタッチパネルの利点
①タッチパネルは従来のものが使える。
制御系(コントローラ)の変更のみで、近接センサー機能を追加出来る。
これまでの抵抗式タッチパネルをそのまま利用することが可能。
②省電力状態からの復帰を操作者に意識させることが不要となる。(用途:PPC・FAXなど)。
タッチパネルに指を近づけることで、本体が低消費電力状態から復帰し、LCDを点灯させて操作をスムーズに行うことが可能となる。
逆に指が離れることにより、LCDを消灯させ低消費電力状態への早期移行が可能となる。
4.FFB(フォースフィードバック)タッチパネル*1
タッチパネルはフラットな面を押す(触る)ことで入力が出来るが、メカニカルSWのように押し込んだ変化や入力時のスイッチを押した感触が無いことで、操作者に入力出来たか出来ていないかの不安が生じてしまう。通常のタッチパネルを利用した入力システムは、タッチパネルへの入力を音や画面が変わることで操作者に通知しているが、その操作感はメカニカルSWには及ばない。
そこで弊社は、米国イマージョン社と技術提携し協力を得て、タッチした指に感触を与えることが可能なFFBタッチパネルを開発・量産化している。
*1:Haptic Feedback(ハプティックフィードバック)と呼ばれる場合もある。
4-1:構成
FFBタッチパネルは、タッチパネルのガラス面に圧電素子を貼り付け、パネル自身を振動させることにより、指に感触を与える構造である。(図2参照)
圧電素子への振動出力は、専用コントローラが用意されている。(図3参照)
4-2:FFBタッチパネルの利点
①タッチパネルに触れる指先のみに感触を伝えられる。
パネル本体だけが振動するため、パネルに触れた指だけに振動を伝えることが可能となる。
携帯電話の振動モーターのような本体全体を振動させて、持った手にも振動が伝わる状態を抑えることが出来る。
②応答性が良く、感触のパターンを様々に変化させることが出来る。
圧電素子を使用しているため、タッチしてから振動が開始されるまでのレスポンスが良い。
感触の強弱、長短、パターンなども専用ツールを利用して作ることが出来るため、スイッチを押したような感触を作り出すことも可能。
③薄型化が可能
振動用のアクチュエータなどを別に構成させることがないため、機器の厚み増加を最小限に抑えることが可能となる。
4-3:応用分野
①カーナビゲーション/操作パネル
ボタンの表示を見て操作が出来ない場合にも、ブラインドタッチが可能となる。
②PC・POS
確実な操作感を得ることで、入力スピードの向上が可能となる。
③医療機器
グローブ着用で使用される用途において、確実な操作感の伝達が可能となる。
④FAX・PPC
ボタンの位置を判別しづらい視覚弱者向けの入力機器として、ユニバーサルデザインに有効となる。
5.ITO代替材料利用タッチパネル
抵抗式タッチパネルに用いる透明電極は一般的にITO(酸化インジウム錫:Indium Tin Oxide)で、構成されているインジウムは高価なレアメタルであるため、安定供給が危惧されている。そのITO代替として、有機導電ポリマー(PEDOT)・カーボンナノチューブ(CNT)・銀ナノワイヤ・グラフェン (graphene)等が透明導電材料として候補に挙がっている。
弊社では抵抗式用として、CNT及びPEDOTを使用したITO代替タッチパネルを開発し、量産準備中である。(図4参照)。
5-1:特徴
TO付きフィルムに比べた場合、下記の特徴を有している。(表2参照)
①透過率が高く、反射率も低い。
②ニュートラル色である:ITOは黄色系、CNTは黒色系、PEDOTは青色系。
③屈曲耐性が高く、構成によっては3次元局面への対応などフレキシブルな形状への対応が可能。
その他耐久性能等はITOと同等レベルである。
項目 | ITO | CNT | PEDOT |
---|---|---|---|
全光線透過率(%) | 85~90 | 89~93 | 87~91 |
反射率(%) | 12以下 | 7以下 | 9以下 |
ヘイズ値(%) | 1.5以下 | 1.0以下 | 1.4以下 |
透過色調(b*) | 2.8~3.3 | 0.5~0.8 | 1.2~1.4 |
抵抗値(Ω/□) | 250~500 | 300~2000 | 300~600 |
PET厚=188μm、クリアタイプ・ANR無し仕様での比較
ヘイズ値:曇り度合いを表す値、数値が小さいほど透明度が高い。
b* :黄色と青の間の位置を示し、正の値は黄色寄り、負の値は青寄りに対応
6.終わりに
近年、静電容量式タッチパネルが普及して、抵抗式からの切替えが進む傾向にある。 しかしながら、抵抗式は静電容量式に比べ、低コストでタッチパネルの入力システムの構成が可能というメリットがあり、今後もスタンダードなタッチパネルとして、高い需要が見込まれている。 弊社としては、スタンダードなタッチパネルをはじめとして、これまで述べたような付加価値のあるタッチパネルも含め、市場のニーズに合った使いやすいインプットデバイスとしての「タッチパネル」を開発・提案してゆくつもりである。筆者:SMK株式会社 TP事業部
出典:電波新聞 2013年10月10日 特集「タッチパネル技術」